自分の名を聞かれているかと思ったのである。
「〜さんですか?」と声を掛けられ、聞き取れずまず聞き返し、その後何度か「ぶんちょうさん」と繰り返してもらって、そこにいたっても鳥のことと思わなかった。
お互い少し困って、私は内心狼狽しながらぐるぐると考えたが、こんな場合の考えはたいてい目当てのところに飛ばず、ひとところを回っているものである。
そうしたら、私が肩に提げていたトートバッグを目で示された。
ようやく合点がいった。
文鳥!!!
バッグに、文鳥が描かれた缶バッジを付けていたのだった。
それにしても鳥とはおおよそ関係ない場所で、こんなふうに鳥飼いの方といきあうとは思ってもみなかった。
カフェでお茶を飲み終わり腰を上げた私の後ろに文鳥飼いさんが座っているなんて。
その方はお食事中の皿のそばからひょいと何かを取りあげてこちらに見せてくださった。
木彫りの文鳥で、ほぼ実物大に見受けられた。
たしかに木だけれども、羽毛だと思って見るからか、その方の手つきが優しかったからか、やわらかく温かく見えた。
「桜文鳥ですね」「はい」
良かった、合っていた。
ご自身で彫られたと聞いて驚く。

掌にのせられた文鳥がいちだん深く息づく。
うちには文鳥はいない。
いるのは錦華鳥である。
文鳥は鳥に興味のない人でもおおかた知っているだろうが、錦華鳥は鳥飼いのなかにも知らない人がいる。
7年通っているかかりつけの小鳥専門病院でも、待ち合いでいっしょになるのはインコが多く、錦華鳥にはついぞお目にかかったことがない。

どちらも同じフィンチという分類に属する鳥で、こちらは文鳥を近しい存在と認識しているが、向こうはそうではあるまい。
それも織り込み「うちはキンカチョウという鳥を飼っていて・・・」と切り出したのだが、途端に「あぁ、ぺぇって鳴く鳥ですね!」と返されたのは驚いたしずいぶん嬉しかった。
互いにスマホのカメラロールにある飼い鳥の写真を見せ合い、私はすでに席を立っていたので短いやり取りになったが、楽しいひとときだった。
唯一持っている文鳥グッズのバッジが、思いがけない出会いを生んでくれた。
「突然声をかけてすみません」と恐縮なさっていたが、平生どちらかといえば人馴れない私も鳥の話題で口が軽くなり、感謝しきりである。
着物をお召しになった素敵な女性の方であった。

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