札幌に隣接する港町「小樽」は、硝子の街でもあります。

目抜き通りに沢山の硝子屋さんが並んでいますが、そのなかで抜きん出て大きく、そして有名なのは北一硝子でしょう。
北一硝子のルーツは明治から続く浅原硝子製造所だそうです。そちらでは現在も漁業用のガラス浮き玉を作っているといいますからたいへんな老舗です。

私が初めて北一硝子を訪れたのは小学校の修学旅行でした。
父方の親戚にお小遣いをいただいたので、「お礼に何かお土産を買ってきてね」と母から念を押されていました。

もと漁業用倉庫だったお店は石張りで重厚感がありました。
明るい表通りから中に入ると、ほの暗いなかにとりどりの硝子がひしめき合って微光を放ち、なんだか気圧されてしまいました。
さらにひとつひとつ品物の値段を見て驚きました。

お小遣いを叩いて、小さなグラスと虹色に光る灰皿を買いました。
帰って母に「あら、自分のものは何も買わなかったの?」と聞かれ、そこではじめて「ああ、そういえばそうだな」と気がつきました。
高価な買い物も、少々気の張る相手に何かを択ぶのも初めてで、それだけで頭がいっぱいでした。
父は比較的派手な灰皿を見て「いいじゃないか」と言いました。
私は内心ほっとしました。叔父叔母と自分とは似通ったところがないように感じていましたから、思い切って自分の好みとは違うものを択んだのでした。
子供ながらに頭を悩ませたあのときの小さな買い物を、ドキドキした気持ちを、今も忘れません。

中年を過ぎた現在の私の買い物は、たいてい楽しくゆったりしたものです。
夫婦ともにフォーマルな付き合いを外にほとんど持たないので、自分もしくは近しい人への気楽な買い物ばかりです。

先日、久しぶりに北一硝子に行きました。
買い求めた醤油さしは何と言ってもあとびきしない作りがすばらしい。職人の手業です。
デザインももちろん素敵で、種類が多く迷いましたが、柄無しのごくシンプルなものにしました。
ボトムに淡く入ったピンク色が、薄花桜の袴のようです。
そうだ、小学生の私も、きっとこういう感じが好きでした。
良かったね、と胸のうちでこっそり声を掛けました。

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